植生分類図
筑波大学農林工学系 西田顕郎
はじめに
植生分類図や土地被覆分類図、土地利用分類図は、環境調査において、地形情報と並んで最も重要かつ基礎的な地理情報である。世の中には、さまざまな機関が植生分類図や土地被覆分類図、土地利用分類図を作成し、配布しているが、それらを適切にGISで利用することで、多様な解析が可能になる。ここでは、日本における、代表的な植生分類図である、環境省自然環境保全基礎調査のデータを処理してみよう。
環境省自然環境保全基礎調査について
まず、以下のページに目を通そう。
特に、「成果物の取り扱いについて」のページは必ず読むこと。一般公開されているデータにも著作権は存在し、利用条件が定められているものである。それらは尊重しなければならない。
データのダウンロードと読み込み
次にデータをダウンロードし、読み込んでみよう。このデータは、ちょっと特殊な書式なので、それをGISに読み込むには書式の変換処理などが必要である。以下のページで、そのためのツールが公開されている:
環境省日本植生図(自然環境保全基礎調査 3次メッシュ植生データ)について 筑波大学農林工学系 西田顕郎
ここの記述に沿って、データをダウンロードし、GRASSにインポートせよ。すると、LC_MEJ_MOD12catsという名前のラスターマップができる(このcatsは、「カテゴリ」という意味。MOD12というデータのカテゴリに準拠している、という意味)。
それができたら、表示してみよう:
g.region rast=LC_MEJ_MOD12cats d.mon x0 d.rast LC_MEJ_MOD12cats

領域内の統計
次に、植生分布の状況を、関東各県でしらべてみよう。
まず、関東地方をズームする。そして、各県の境界を重ねて描いてみよう。各県の境界は、前回、ベクターデータとして作成してあるはず。
d.zoom for i in chibak gunmak ibaragik kanagawk saitamak tochigik tokyohk; do d.vect $i type=boundary color=orange done

では、茨城県内で、それぞれの植生カテゴリが、どのくらい存在しているか見てみよう:
r.mapcalc "MASK=if(0 <= ibaragik)" r.stats LC_MEJ_MOD12cats -p -n
r.stats: 100% 0 0.15% 1 27.66% 2 0.31% 3 0.02% 4 6.93% 10 2.95% 11 4.65% 12 21.99% 13 13.37% 16 0.09% 253 21.99% 254 0.05% [Raster MASK present]
ここで、左の列の1,2,...,253,254は、植生カテゴリの番号であり、実際の植生には以下のように対応する:
0 その他 1 常緑針葉樹林 2 常緑広葉樹林 3 落葉針葉樹林(カラマツ) 4 落葉広葉樹林 5 混合樹林 10 草原 11 水域 12 農地(水田除く) 13 都市 16 裸地 253 水田 254 未分類
従って、茨城県の面積のうち、常緑針葉樹林が28%と最も多く、次いで畑、水田が22%程度を占める、ということがわかる。
さて、上の処理で、r.mapcalc "MASK=if(0 <= ibaragik)"という処理があったが、このMASKというのは、GRASSにおいて特別な意味(機能)を持つラスターマップである。普通、ラスターマップは、ユーザーが適当に名前をつければいいのだが、この"MASK"という名前をもつラスターマップだけは特別なのである。このマップセットは、解析の対象範囲(region-of-interest ... ROI)を決めるラスターマップである。このラスターマップが存在すると、GRASSの様々な解析処理はこのMASKが指定する領域(MASKの値が1の領域)だけを対象にする。なので、上で行ったr.mapcalcコマンドは、ROIを茨城県内に限定する働きをしたのだ。
では、同様の解析を、茨城県のライバルである、千葉県に対して行ってみよう。まず、ROIを千葉県にあわせよう。ただし、現在は茨城県にROIが設定されているので、そのままr.mapcalcを走らせてMASKを作ろうとしても、茨城県内に対してのみr.mapcalcの処理が行われるので、MASKは全面がnullになってしまう。そこで、まず現在のMASKを消して、改めてMASKを千葉県用に作る、という手順を踏まねばならない:
g.remove MASK r.mapcalc "MASK=if(0 <= chibak)" r.stats LC_MEJ_MOD12cats -p -n r.stats: 100% 1 17.25% 2 0.53% 4 16.19% 12 14.82% 13 16.83% 253 25.46% (一部省略)
これを見ると、千葉県は茨城県に比べて、農地の割合が少なく、落葉広葉樹林が多いことがわかる。
では、森林(カテゴリ1,2,3,4,5)の割合が最も高いのは、関東地方のどの都県だろうか?
rm rank.txt for i in chibak gunmak ibaragik kanagawk saitamak tochigik tokyohk; do g.remove MASK r.mapcalc "MASK=if(0 <= $i)" r.stats LC_MEJ_MOD12cats -p -n | awk '0<$1 && $1<=5{a=a+$2}END{print pref, a}' pref=$i >> rank.txt done cat rank.txt
chibak 33.97 gunmak 66.29 ibaragik 35.1 kanagawk 36.81 saitamak 34.13 tochigik 55.62 tokyohk 33.64
予想通り(?)、群馬、栃木が圧倒的に高いが、意外にも、その他の都県はあまり違わない。東京は都会のイメージがあるが、西部の多摩地方は森林が豊富なのである。
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References:[教師なし分類による土地被覆分類図の作成] [GIS入門]