GNSSと電子コンパスを用いた野外調査実習
しかし, どんな野外調査にも共通する大事なことが4つある。まずそれをしっかり理解し肝に念じよう:
1. 安全。自分や周囲の人が怪我したり落命することは絶対に阻止せよ。これは全てに優先する。研究者が命に替えてでも欲しいデータを取りに行った結果, 大怪我をしたり落命したら, 本人は本望かもしれないが多くの人は悲しむし, 後始末が大変だ。そして以後の調査研究は厳しく制限される。肝に銘じよう, たとえ成果がゼロでも全員が安全に帰還できたら調査は90%以上は成功だ。
2. 誠実さ。野外調査で得られたデータは「一次情報」といって研究や学説の基盤になる。だから真実を反映すべきである。といっても間違うのは仕方ない(にんげんだもの)。しかし欺いてはならない。架空のデータをでっちあげたり, データを恣意的に書き換えたりは, 絶対ダメ。これは授業の実習でも同じ。時間がない・めんどくさいなどいろんな事情はあっても, データのでっちあげや書き換えの「悪魔の誘惑」に決して負けてはならない。データがとれなかったら「とれなかった」と素直に言う勇気を持つのだ。
3. 法令遵守。駐車違反や, 無許可での私有地侵入・採取などはダメである。野外調査は多くの人の理解と好意に基づく。法令違反はたとえ取り締まられなくても, 人々からの信用や好意を失い, 自分だけでなく他の人の野外調査にも支障が出る。
4. データポリシー。これはどのようなデータをどのように記録・配布してよいかという判断や取り決めである。人のプライバシーに関わる可能性のある情報の取得・記録・公表は慎重に行わねばならない。希少生物の生息地などの情報は, マニアによる乱獲を引き起こす危険がある。
今日の実習も, この4つを肝に銘じて行ってほしい。
問題1: 以下の緯度・経度を, 度の小数だけで表わせ:
N 36 deg 5 min 1.72 sec, E 140 deg 7 min 0.51 sec
答: N 36.083811 deg, E 140.116808 deg
解説: 秒から計算すると楽。まず1.72を60で割って, 5を足して, 60で割って, 36を足す。
問題2: 以下の緯度・経度を, 度分秒で表わせ:
N 36.12215 deg, E 140.31245 deg
答: N 36 deg 7 min 19.74 sec, E 140 deg 18 min 44.82 sec
解説: まず度の整数部分はそのまま。1未満の小数を計算機に入れ60をかける。その整数部が分。その整数を引いて(1未満の小数になる)60をかけると秒が出る。
問題3: 位置の不確かさについて考えよう。なお, 赤道で地球1周はほぼ4万 kmである。
(1) 緯度の標準偏差0.1秒は何mに相当するか? 答: 3.1 m
(2) 経度の標準偏差0.1秒は何mに相当するか? 答: 緯度による。北緯35度なら2.5 m。
解説: まず赤道で経度360度が4万 kmに相当するので, 経度1度に相当するのは4万 km/360=111.1 km。1度は3600秒なので, 1秒に相当するのは111.1 km/3600=0.0309 km = 30.9 m。従って0.1秒は3.09 m ≒ 3.1 m。ところが経線の間隔は地軸からの距離に比例するので高緯度ほど狭い。地軸からの距離は緯度のコサインに比例する。従って北緯35度なら, 経度0.1秒に相当するのは3.09 m x cos(35度) = 3.09 m x 0.819 = 2.5 m。
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