2. 野外調査の心得

 生物資源学類の研究には野外調査(field work)が必要なことが多い。社会経済学では地域の人へのインタビュー, 生物学では生き物の観察・捕獲・計数, 砂防学では土砂量や河川流量, 環境科学では水や土や空気の採取・計測, 森林調査では樹木の高さや太さの計測などである。計測に使う機械や方法は様々であり, 数時間でできる調査もあれば数ヶ月におよぶ調査もある(私は学生時代に南米の氷河で2ヶ月間の野外調査をしたことがある↓)。

 しかし, 全ての野外調査に共通する大事なことが3つある。学生実習でも, この3つは肝に銘じよう。

1. 安全(全てに優先する)。自分や周囲の人が負傷・落命することは絶対に阻止せよ。たとえ成果がゼロでも全員が安全に帰還できたら調査は99%は成功だ。

2. 誠実。事実やデータの捏造や改竄は厳禁だ。失敗や事故, 違反などをしてしまったときは, 隠したり逃げたりせず, 正直に関係者に連絡・説明せよ。

3. 法令遵守。駐車違反や無許可での私有地侵入・採取などはダメである。たとえ法令違反でなくても関係者や地域や社会の信頼を失わないように心がけよ。

小さな経験から積み上げて「しっかりした人」になろう

 野外調査を含めて, 研究現場では「しっかりやる」ことが大事だ。研究現場が危険な場所(高所・閉所・水域)だったり, 危険なモノ(機械・薬品・生物)があったりすると, うっかりしていれば人身事故が起きかねない。高価な機械を雑に触って壊したら大損害だ。手順を間違えたり記録をいい加減にすればデータを台無しにすることもある。

 だから諸君には研究現場に出入りするようになる前に「しっかりした人」, つまり判断力・責任感・慎重さ・規律を持ち, 周りと意思疎通しながら, 物事を確実に処理できる人になってもらう必要がある。それがこの実習の目的のひとつなのだ。

 「しっかりした人」になるには, 現場をたくさん経験し, 計測機械にたくさん触れ, 失敗をたくさん経験する必要がある。といってもその過程で起きるダメージは小さくしたいので, 最初はまず小規模・安価・手軽な調査研究で経験を積むのだ。


課題2-1(班で議論せよ): (架空の話)ある大学では, 研究の一環として, 指導教員が了解していれば学生だけで野外調査をすることが認められていた。その大学の学生が調査中に事故を起こし, 重い障害を伴う負傷を負い, 調査地の地域の警察・消防団・病院が捜索・搬出・治療にあたった。その後, この事故はどこにどのような影響を与えるか? たとえばその大学のルールはどうなるか?


課題2-2(班で議論せよ): (架空の話)ある有名な生態系観測サイトでは, 長年, 国内外の多くの研究者が訪れ, 多くの重要な研究結果が出ており, 現在も多くの研究プロジェクトが当地で行われている。ところが, 調査に参加した学生がその近くの渓流で, 休憩時間に釣りをしていたことが判明し, 地元の漁業組合の漁業権を侵害していたことが明らかになった。それはこの生態系観測サイトにどのような影響を与えるだろうか?


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