電子コンパス
(電子コンパスは人工衛星とは無関係な計測技術だが, GNSSと良い補完関係にあるのでここで一緒に学ぶ。)
コンパス(方位磁石)は地磁気を利用して東西南北の方位を教えてくれる。古典的には小さな棒磁石を使うが, 今はスマホに電子デバイスとして入っている。スマホを水平にすると, スマホの頭の方向が電子コンパスの差す方向である。北を0度とし, 東が90度, 南が180度, 西が270度, というふうにぐるっとまわって360度で北に戻るような角度で方位を表す。
コンパスで方位を測るとき北の定義が極めて重要である。普通に北といえば現在地から北極点への方向であり, それを「真北」という。ところがコンパス(磁石)が指す北は「磁北」といって, それは真北とは一致しない(ことの方が多い)のだ。それは, 「北極点」と「北磁極点」が互いにかなりズレているからだ。そして真北から見た磁北の方位を「偏角」という。
従って, 方位の計測や記録は「真北からの方位」なのか「磁北からの方位」なのかを明記しなければならない(対数の底を省略してはダメであることに似ている話だ)。多くのスマホアプリは設定次第でどちらにも対応できるはずだ。裏をかえせば, だからこそチェックして記録しなければならない(泣)。
課題8-1: 君のスマホに電子コンパスのアプリを入れよう。android携帯では先ほど使った"GPS Test"にもその機能がある。班員全員について, スマホの種類(iPhoneかandroidか)と, どういう名前のGNSSアプリを入れたかを記録し報告せよ。
課題8-2(レポートにする必要はない): そのGNSSアプリで以下のことを表示してみよ。班の中で助け合い, 全員が表示できるようにせよ。とりあえず方位計測の対象は何だってよい。
(1) 真北 (true north) からの方位
(2) 磁北 (magnetic north) からの方位
(3) 偏角(declination)... 一定のはず。西向きに何度, という値だろう。
↑これはGPSTestで表示した真北からの方位。画面右下にTとあるのが"true north"の意味。右上のDeclinationが偏角。Wは「西向き」という意味。
ここで, (1)と(2)の差が(3)になっているはずだ(同じ対象に向けているとき)。
ここで君は大きな教訓を得たはずだ。スマホで「方位」を計測したとき, それが真北からなのか, 磁北からなのか, そこを誤解すると, 大きな間違いをしてしまう(7度もずれる!!)ということだ。繰り返しになるが, こういうことをちゃんとわかって対処できるかどうかが「しっかりした人」のひとつのポイントである。
課題8-3: 班全員で同じ方位を計測して比較せよ。すなわち, 立ち位置をひとつ決め, そこから遠くの目標物(木でも電柱でも筑波山でもよい)を決める。その方位を各自がかわりばんこに測るのだ。その結果を比較せよ。そのくらいばらつくか? 慎重にやらないと結構ばらつくはずだ。ばらつきを抑えるにはどういう工夫が必要だろうか?
解説: ここでばらつきが大きい場合は, 「補正」(calibration)が必要な可能性が高い。アプリの中をいろいろ探して, コンパスを補正する機能を見つけ, 実行してみよ(スマホを8の字に振り回す)。
↑これはGPSTestの補正の画面。
課題8-4(オプション): メンバー全員の方位データから, その標準誤差を求めよ(標準偏差は標本標準偏差を使えばよい)。標準誤差を1度未満にするには, 計測の反復回数を何回くらいにすべきか? (大数の法則)
課題8-5(オプション): GNSSと電子コンパスは異なる原理で動く異なるセンサーである。そこで, これらの計測結果同士の整合性を調べることで, これらのセンサーの性能を評価できる。それをやってみよう。原理は, 2つの地点A, Bを設定し, それらの緯度経度をGNSSで測って, AからBへの方位を理論的に求めるのである。そして実際にAからBを電子コンパスで望んで方位を測る。それが小さな誤差で一致していればバンザイ!!である。合っていなければ何かがおかしい。その原因を追求するのだ。細かいやり方は諸君に任せる。工夫して実行せよ。それが野外調査であり研究なのだ。
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