9. 衛星リモートセンシング
人工衛星は信号を出して位置計測を助ける(GNSS)だけでなく, 搭載されたカメラやセンサーで地表面状態を観測することで野外調査や地球環境監視に貢献している。その技術を衛星リモートセンシング, 略して衛星リモセンという。本実習の最後に, 人工衛星リモートセンシングによって筑波大学キャンパス周辺がどのように観測されるかを確かめてみよう。
この図はキャンパスの南地区, 体育施設が密集している付近である。ここを欧州宇宙機関が運用しているSentinel-2衛星が2023年4月27日に観測した画像を示す。
↑図9-1 南地区の地図。筑波大学ホームページより。
↑図9-2 赤, 緑, 青の3原色で観測・合成された画像
ここで右上の「セキショウフィールド」(アメフト場)と, その直下の「CHUBU UT Field」を比較しよう。両方共, それなりに緑色だ。草や芝生のせいだろう。同じ範囲を近赤外線で見たものを示す:
↑図9-3 近赤外線の単色画像。黒い部分が弱く, 白い部分が強い。
課題9-1: 図9-2, 図9-3のそれぞれで「セキショウフィールド」「CHUBU UT Field」がどこにあるかを確認せよ。
課題9-2: 「セキショウフィールド」「CHUBU UT Field」は, 図9-2では同じような緑色なのに, 図9-3では大きく異なって見える。これはなぜだろうか? ヒント: この2つのグラウンドは互いに何が違うか? 班の中で相談せよ(体育の授業で使ったことがあるだろう)。赤・緑・青の画像(図9-2)では違いが出ず, 近赤外光の画像(図9-3)で違いが出たということは, 2つのグラウンドの違いが近赤外光に反映されたということである。
これは2023年度の大学入学共通テストの生物学で出題された問題↓ともつながる話である。
↑図9-4 2023年度大学入学共通テストの問題。ここで「赤外線」とあるのは正確には近赤外線である。
このように衛星リモートセンシングは植生の状態をはじめ, 様々な情報を得ることができる。しかし, その大敵は雲である。可視光・赤外線は雲に遮られてしまうので, 晴天条件でしかよい観測ができないのだ。たとえば図9-5は2023/04/12にSentinel-2衛星で観測された, つくば中心部から筑波大学にかけての可視光(赤緑青の三原色)画像だが, 中央部に広く真っ白な部分が広がっている。これは雲である。その下は全く見えていない。
↑図9-5 可視光画像(Sentinel-2衛星; 2023/04/12)
課題9-3: それぞれの雲の領域の左上に, 黒っぽい領域が広がっている事を確認せよ。この黒っぽい領域は何だろうか?
ところが驚くべきことに, 雲があってもそれを突き抜けて(透視して)観測する技術があるのだ。そのひとつを合成開口レーダー(synthetic aperture radar; SAR)という。図9-6は同じ日(時間帯は違う)に同じ範囲を観測した画像である。雲は全く見えていない。
↑図9-6 合成開口レーダー画像(Sentinel-1衛星; 2023/04/12; 赤:VV, 緑:VH, 青:VV)
課題9-4: 図9-6で, 以下の場所を確認せよ: 東大通り, 西大通り, つくばセンター。
しかし, 何やらわかりにくい画像である(泣)。わかりにくいのは, 観測に使われた電磁波が, 可視光や赤外光とは全く違う「マイクロ波」だからである(違った色には違った偏光が割り当てられている)。我々人間の目では見慣れていない光の強さを, 無理やりコンピュータ上で三原色に置き換えて絵にしたものだからである。そこでマイクロ波で農地や森林がどのように見えるのかを研究することが長い間, 行われている。
課題9-5: 図9-6で, 水田地帯はどのような色で表されているか?
まとめ課題: この実習で気付いたこと・大きな学びを得たことを述べよ。
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