筑波大学生物資源学類 「入学前教育」「基礎数学」

学習観のアップデート

「受験慣れ」になっていませんか?

 受験勉強の長所は大量の内容を短時間で習得できることです。でも, 「受験のため」が行き過ぎると, 短所があらわれます。すなわち, 丁寧な理解を置き去りにする, テストに出ない内容を切り捨てる, 学んだことに愛着を持たず, テストが終わったらすぐ忘れる, などです。それが顕著な状態を, 我々は「受験慣れ」と呼びましょう。

「受験慣れ」のまま大学に入ると...

 受験慣れのままで大学に入学すると, 次のような状況になるおそれがあります:
  1. 学びの動機を失い, 新しい学びに関心が向かない。

  2. 入試の得点や結果を気にかけ, 同級生や他大学に行った人と自分を比較し続ける。

  3. 入学後も成績(GPA)や単位が気になりすぎて, 学びに楽しさを見出せない。

  4. 手っ取り早く「正解」を探す癖がついているので, じっくり調べたり考えたりができない。

  5. 他者が決める「正解」が学びの基準なので, 「理解」「自己決定」の認識・自覚・欲求が育たない。

  6. 基本事項の理論的な理解よりも, 問題と正解のマッチングに関心を向けるため, 学びが体系化・一般化されず, 効率が悪い。

  7. 視野・好奇心を拡大できず, 「大学は自分で勉強するところ」と言われても, どうすればよいかわからない。

  8. 教え込み式の教育に慣れており, 自習できない。高校未修科目など, 自分に足りない勉強を自分でできない

  9. 学んだことを忘れていき, 就職活動の入社試験(SPIなど)で小中学校レベルのテストに苦労する。

  10. 「正解の無い問題」に取り組めず, 卒業研究や就職後に苦労する。

  11. 失敗や間違えることを極度に恐れ, 自己開示や未知の課題への挑戦ができず, 失敗から学べない。

  12. わからないことをあっさり諦めたりスキップするので, 達成感のある経験が積めず, 自己肯定感が育たない。

 ちょっと怖いですね...。大学はこのような状況に危機感を抱いているからこそ, 入試にいろんな工夫をするのです。


 

基礎が大事!

 どうやったら受験慣れから抜け出せるのでしょう? ひとつは「基礎を丁寧にやり直す」ことです。基礎が強固になると, 理解が深くなり, 学びが楽になって楽しくなり, 興味関心が広がります。

 「基礎」=「簡単なこと」ではありません。基礎は, 多くの知識や物事を支える知識です。「それを知らないと詰む」のが基礎です。

 もうすこし具体的に説明しましょう。下の図を見て下さい。

この図の左の方が「基礎」です。例えば, 小学校で習う掛け算の九九は基礎ですが, それと同様に, 高校数IIIの微積分や自然対数も基礎です。九九を知らないと色々と詰むように, 微積分や自然対数を知らないといろんな場面で詰むからです。

 ところが, 受験慣れの人は, 大学に合格しても, 上の図の右側の方ばかり気にかけるのです。無意味とは言いませんが, 噛み合っていないのです。

 入試が終わったら頭を切り替えて, 基礎を勉強するのです。まずは教科書レベルの内容を, 丁寧に積み直して, 小中学校から高校3年生の課程まで緻密に理解するのです。

 特に優先すべきは国語と数学です。理由は2つあります: あなたが想像するよりも多くの分野・多くの場面で, 国語と数学が土台として必要になる, ということと, 国語と数学の勉強には手間暇がかかる, ということです。

 もうひとつイメージを挙げましょう。下の図を見て下さい。

図の上半分の「残念な勉強」は「受験慣れ」の人にありがちです。見た感じ高い学力を持っていて, さらにてっとり早く高く学力を積もうとするのですが, 実際は隙間の多い学力になってしまい, いずれ崩れて消えてしまいます。多少低くてもよいので, これまで学んだことを再整理してまずはガッチリした土台を作りましょう(図の下半分)。それが基礎の勉強です

入試で問われないけど大事なこと

 受験慣れは, 入試で問われないことの能力や理解がおろそかになります。その中でも大事なのは以下のことです:

学習観をアップデートしよう!

 ここまで読んできて, 「どうやら高校までとは雰囲気が違うな」と思いませんか?そうなのです。勉強の目的・対象・方法の全て, つまり「学習観」が, 大学では変わるのです。

 高校(大学入試)までの学習観は,

というかんじではないでしょうか? それを合格後(入学後)も続けるのはさすがに意味がありませんね。大学(入試合格後)の学習観は, というものになるでしょう。といっても, 綺麗事っぽくて抽象的でよくわかりませんね。だから, 学習観のアップデートは簡単ではないのです。あなたの価値観, 人生観, 世界観に関わる話なのです。だから大学ではいろんな人に出会い, いろんな経験をすることが大事なのです。

 学習観のアップデートに重要なキーワードは「内発的動機」「認知能力・非認知能力・メタ認知能力」「内省」です。

内発的動機

 学び動機として「大学合格」は大変に強いです。これまでにも何回か出てきましたが, 学びに限らず, 人が何かをするとき, その動機には「外発的」「内発的」の2種類があると言われています。これらの違いについて, ネットなどでいろいろ調べてみましょう。「大学合格」は外発的な動機です。合格したらあっさり消えてしまうことからも, それは明らかです。長期的に人を成長させ, 良い仕事をさせるのは内発的動機だと言われています。どうすれば内発的な動機で学ぶことができるか, 考えてみましょう。

認知能力・非認知能力・メタ認知能力

 人間の能力は様々ですが, 特に知的・精神的な能力として, おおまかに「認知能力」「非認知能力」「メタ認知能力」というものがあります。あなたには, この3つがどういう能力かを, 自分で調べて知って欲しいのです(検索すればたくさん出てきます)。そして, 自分についてこの3つの能力がバランスよく備わっているか, 考えて欲しいのです。

 ペーパーテストでは, 認知能力が主に測定されます。しかし, 人間の自己実現や学び, 成長においては, 非認知能力やメタ認知能力が大切だということが, 多くの心理学者によって実証されています。これらの能力は, 上述の「内発的動機」を持てるかどうかにも関わっているのです。

「内省」しよう

 ここまでこのページを読みながら自己診断書に向きあう中で, あなたは自分について(勉強法について), 改めて客観的に見つめなおしたでしょう。そして, 自分には何ができて, 何ができないか, それがなぜなのか, これからどうするのがよいか, などを自問自答したでしょう。そのような精神活動を「内省」(reflection)といいます。

 人間の成長において, 内省はとても大切で有効です。あなたを伸ばすのは, 結局, あなた自身だからです。特に, 非認知能力・メタ認知能力は内省によって伸ばすことができます。多くのプロフェッショナルな人々(スポーツ選手や経営者など)は, 内省をとても大切にします。何かに成功したり失敗したりするたびに内省するのです。

 内省は「反省」とはちょっと違います。反省は自分のダメだったところを重点的に考えますが, 内省はもっとニュートラルで深いものです。内省のスキルと習慣を身につけましょう。内省は自分自身との対話ですから, 自分自身を的確に論理的に表現するのスキル(言語能力)が大事です。ここでも表現力や読解力が必要なのです。


要するに...

ということです。