GNSSと電子コンパスを用いた野外調査実習

事前学習: 野外調査の心得

 生物資源学類は多くの分野で「野外調査」(field work)を行う。この実習ではその基礎の基礎を学ぶ。野外調査には様々である。社会経済学では地域の人へのインタビュー, 生物学では生き物の観察・捕獲・計数(有名なのは生物学類のタンポポ実験!!), 砂防学では土砂量や河川流量, 環境科学では水や土や空気の採取・計測, 森林調査では樹木の高さや太さの計測などである。使う機械も移動方法も実に様々である。数時間でできる調査もあれば数ヶ月におよぶ調査もある(私は南米の氷河で2ヶ月間の野外調査をしたことがある)。

 しかし, どんな野外調査にも共通する大事なことが4つある。まずそれをしっかり理解し肝に念じよう:

1. 安全。自分や周囲の人が怪我したり落命することは絶対に阻止せよ。これは全てに優先する。研究者が命に替えてでも欲しいデータを取りに行った結果, 大怪我をしたり落命したら, 本人は本望かもしれないが多くの人は悲しむし, 後始末が大変だ。そして以後の調査研究は厳しく制限される。肝に銘じよう, たとえ成果がゼロでも全員が安全に帰還できたら調査は90%以上は成功だ。

2. 誠実さ。野外調査で得られたデータは「一次情報」といって研究や学説の基盤になる。だから真実を反映すべきである。といっても間違うのは仕方ない(にんげんだもの)。しかし欺いてはならない。架空のデータをでっちあげたり, データを恣意的に書き換えたりは, 絶対ダメ。これは授業の実習でも同じ。時間がない・めんどくさいなどいろんな事情はあっても, データのでっちあげや書き換えの「悪魔の誘惑」に決して負けてはならない。データがとれなかったら「とれなかった」と素直に言う勇気を持つのだ。

3. 法令遵守。駐車違反や, 無許可での私有地侵入・採取などはダメである。野外調査は多くの人の理解と好意に基づく。法令違反はたとえ取り締まられなくても, 人々からの信用や好意を失い, 自分だけでなく他の人の野外調査にも支障が出る。

4. データポリシー。これはどのようなデータをどのように記録・配布してよいかという判断や取り決めである。人のプライバシーに関わる可能性のある情報の取得・記録・公表は慎重に行わねばならない。希少生物の生息地などの情報は, マニアによる乱獲を引き起こす危険がある。

 今日の実習も, この4つを肝に銘じて行ってほしい。


事前学習: GNSSとは

全球測位衛星システム, またの名はGNSS (global navigation satellite system)。スマホやカーナビの位置情報を出してくれるアレである。農林業でも精密農業をはじめとする分野で使われている宇宙技術である。GNSSは便利だが, いろんな特徴や癖がある。それらを理解することで, より便利・正確に利用できる。 参考: "GNSSとは?高機能で安心・安全な社会環境を支える衛星測位システムを知ろう"


事前学習: スマホを使った統計処理の練習

今回の実習では, 緯度経度データの統計処理が必要である。それを屋外でスマホでやる。そのための練習をやっておこう。計算が楽にできるアプリを入れて, 以下の問題をスマホだけで行なってみよう。あわせて統計学の基本をおさらいしておこう。

問題1: 以下のデータについて,

5, 6, 4, 5, 8, 3, 4

(1) 標本平均を求めよ。 答: 5.0

(2) 標本標準偏差を求めよ。(標本分散を元に) 答: 1.51

(3) 標本標準偏差を求めよ。(不偏分散を元に)答: 1.63

解説: サンプルサイズをnとすると(この問題では7), 標本分散は残差平方和をnで割り, 不偏分散は残差平方和をn-1で割る。前者より後者のほうが大きい。サンプルサイズが大きい時はこれらの差は気にならないのでどちらを使っても大差はないが, 今回の実習ではサンプルサイズは4~5程度と小さいので, 不偏分散を元にした標本標準偏差を使う。

問題2: 以下のデータについて,

4005, 4006, 4004, 4005, 4008, 4003, 4004

(1) 標本平均を求めよ。 答: 4005.0

(2) 標本標準偏差を求めよ。(標本分散を元に) 答: 1.51

(3) 標本標準偏差を求めよ。(不偏分散を元に)答: 1.63

解説: 問題1と問題2で, (2)以降は同じになった。これはなぜだろう? これを利用して, 問題2を楽に計算できないか?

問題3: 以下の緯度・経度を, 度の小数だけで表わせ:

N 36 deg 5 min 1.72 sec, E 140 deg 7 min 0.51 sec

答: N 36.083811 deg, E 140.116808 deg

解説: 秒から計算すると楽。まず1.72を60で割って, 5を足して, 60で割って, 36を足す。

問題3: 以下の緯度・経度を, 度分秒で表わせ:

N 36.12215 deg, E 140.31245 deg

答: N 36 deg 7 min 19.74 sec, E 140 deg 18 min 44.82 sec

解説: まず度の整数部分はそのまま。1未満の小数を計算機に入れ60をかける。その整数部が分。その整数を引いて(1未満の小数になる)60をかけると秒が出る。

問題4: 以下の地点について,

N 36 deg 5 min 1.72 sec, E 140 deg 7 min 0.51 sec

N 36 deg 5 min 1.93 sec, E 140 deg 7 min 0.23 sec

N 36 deg 5 min 1.54 sec, E 140 deg 6 min 59.87 sec

N 36 deg 5 min 1.36 sec, E 140 deg 6 min 59.28 sec

N 36 deg 5 min 1.66 sec, E 140 deg 7 min 0.04 sec

(1) 緯度の標本平均を求めよ。答: N 36 deg 5 min 1.64 sec

(2) 経度の標本平均を求めよ。答: E 140 deg 6 min 59.99 sec

(3) 緯度の標本標準偏差を求めよ。(不偏分散を元に) 答: 0.212 sec

(4) 経度の標本標準偏差を求めよ。(不偏分散を元に) 答: 0.461 sec

問題5: 位置の標準偏差について考えよう。なお, 赤道で地球1周はほぼ4万 kmである。

(1) 緯度の標準偏差0.1秒は何mに相当するか? 答: 3.1 m

(2) 経度の標準偏差0.1秒は何mに相当するか? 答: 緯度による。北緯35度なら2.5 m。

解説: まず赤道で経度360度が4万 kmに相当するので, 経度1度に相当するのは4万 km/360=111.1 km。1度は3600秒なので, 1秒に相当するのは111.1 km/3600=0.0309 km = 30.9 m。従って0.1秒は3.09 m ≒ 3.1 m。ところが経線の間隔は地軸からの距離に比例するので高緯度ほど狭い。地軸からの距離は緯度のコサインに比例する。従って北緯35度なら, 経度0.1秒に相当するのは3.09 m x cos(35度) = 3.09 m x 0.819 = 2.5 m。

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