第11章のコメント
学生のリアクションペーパーから
今までの算数や数学は実際の生活で起こる事象や実験事実を説明するための根拠を論理に求めているものが多い一方で、量子化学などにおいては仮説や論理をまず作り上げたのち、その根拠を実験事実や他の論理に求めるというように順序が逆になっているからではないかと思う。今までの私の認識では、個別の事象が集まったとき、それらをどのように矛盾なく説明できるのかという点が「論理との整合性」だと思っていたが、それだけでなく人間が仮定した世界が個別の事象や実験事実と矛盾なく繋げられるかという点においても「論理との整合性がある」としてよいというのは新しい学びだった。最近の基礎数学の授業を受け、このような人間が仮定した世界から出発する仮説が無くては現実世界で起こる現象の世界からは出ることができないと考えると、学問としての大きな発展であったのかもしれないと少し実感することができた。その点で講評に書かれていた「世界を認識し、理解していく上で、人類が獲得した学びのアップデート」と言えるのではないかと解釈した。そして、このような人間が作り出した仮説が「『無理やり』と見えることにも根拠(実験事実や論理との整合性)があ」り、体系性までがきちんと確保されているのは自身が非常に驚かされた部分である。選ばれた人々が投票などで決めているわけではないのにもかかわらず、議論などを経て、理論が淘汰されたり有力なものとなったりする過程で整合性が生まれていくのは想像以上にすごいことであると感じさせられた。
量子力学をほんの少しかじっておくのは良いとは思ったが、これから先で学んでいきたいとは思わなくなった。無理矢理定義をそういうものとして捉え続けていくには自分に限界があると思ったからである。
… 世界を認識し, 理解していく上で, 人類が獲得した「学びのアップデート」です。「無理やり」と見えることにも根拠(実験事実や論理との整合性)があるのです。しかし, 当時このような考え方(公理主義)に違和感や拒否反応を起こした人もたくさんいるので, 君の感想はもっともなことだと思います。私としては, 今はそのように思っていても徐々に慣れていって「限界」を超えていって欲しいなと思います。まあ、大きなお世話かもしれませんが(笑)。
「確率振幅」の概念に関して、電子雲のことでしょうか?
… 電子雲の正確な定義を私は知りませんが(多分みんななんとなくで使っています), 近いけど同じではありません。電子が各座標に存在する確率振幅(それが波動関数)の絶対値の2乗が(多分)電子雲です。
「2つの波動関数どうしの内積は関数同士の積の積分」という説明で片方にのみ現れた複素共役がどのような意味を持つのかという点について知りたいと感じた。
… 複素計量空間の内積の定義。P105の8.6節です。
ヒルベルト空間とは、シュレディンガー方程式の解である波動関数の集合であり…
… ちょっと違います。ヒルベルト空間は「完備化」という操作がなされた計量空間です。シュレーディンガー方程式の解の集合はその性質を満たすからヒルベルト空間です。ただし, 今回の授業ではシュレーディンガー方程式の解の集合のことを便宜的にヒルベルト空間と言いました。世間では「状態空間」などと言います。
シュレディンガー方程式は波動関数である。
… 違います。シュレーディンガー方程式の「解」を波動関数と呼ぶ, です。
上向きのスピンが下向きになりえないというのがすこし不思議だと感じました。その時点で上向きのスピンを上向きか下向きかで表すなら当然上向きですが、いつまでたっても下向きにはならないというのがよくわかりません。
… 「その時点」での話だと思って下さい。電場をかけたり磁場をかけたり粒子をぶつけたりいろいろやれば下向きにもなりますよ。
1個の電子のスピン状態全てからなる集合は 上向きのスピンと下向きのスピンの2次元の線形空間で、この2つが基底で、なおかつ全方向のスピンを表せるのが気持ち悪いと思った。自分の今までの感覚では、「上下で一つの方向」であるし、「上下を足し合わせてもその軸に垂直な方向は生まれない」と思う。
… 化学で電子のスピンの上下ばかり言うのはこれが理由です。上と下だけで基底になるので, その線型結合でできる(!)右や左は考える必要がない。でもこれ, 不思議で気持ち悪いですよね。