第8章のコメント
学生のリアクションペーパーから
テキストでフーリエ級数展開は不連続な関数の場合、微妙だというのを見たときはどういう意味なのか分からなかった。
… フーリエ級数展開できるのは「区分的に連続」「区分的に滑らか」という条件を満たす関数であり, そして仮にフーリエ級数展開できても不連続点では元の関数を再現しないということが起こりえます。このへんはガチな数学になるので資源では「微妙」という言葉でスルーです(笑)。
水素原子のs軌道やp軌道の内積は0になるというのは、今回予習した正規直交基底の例なのではないかと思いました。
… その通りです。{2s, 2px, 2py, 2pz}はL殻の電子状態全てからなる線型空間(計量空間)の正規直交基底です。
「計量空間という概念の中に波動関数の集合やシュレディンガー方程式がある」という認識であっていますか?
… 「波動関数の集合」は計量空間です。シュレーディンガー方程式は計量空間ではありません。
積分はその定義から数ベクトルの成分の総和を取る操作に近似できることから、積分で内積を定義することと、数ベクトルの成分の四則演算で内積を定義することの間には、本質的に大きな違いはない。
線形空間には内積が必要ではなく、線形空間のうち内積が導入されたものを計量空間という。その中でも完備なものをヒルベルト空間という。このヒルベルト空間は量子力学において重要で、シュレーディンガー方程式の解である波動関数の集合はヒルベルト空間の一つである。(…) 波動関数の内積は、関数同士の積の積分で表され、一方は複素共役をとってかける。関数の積について、積分の定義から考えると、Δxが任意の区間で等しければ各値の(私たちがよく使う)内積の和にΔxをかけたものとして表される。電子のスピンの基底の選び方は何通りもあるが、1例として上向き下向きがある。基底として上と右というように選ぶことはできるが、基底同士の内積が0にはならない。量子力学において内積は確率振幅という量を表すのだが、確率振幅の絶対値の2乗が確率を示すという性質がある。例えば、「状態Aと状態Bの内積」の絶対値の2乗は状態Aが状態Bになる確率を表すこととなる。
水素原子のs軌道は球形であり、偶関数的性質を持つ。一方p軌道は(…)奇関数的性質がある。よってこれらの積は奇関数的性質を持つ。内積を求めると、-∞から∞の積分区間で相殺され0になるので、これらの軌道は「直交」しているといえる。このように、ユークリッド空間における「直交」はヒルベルト空間におけるそれとは異なる。ヒルベルト空間においては内積が0となるときを「直交」と定義している。