第5章のコメント

線型空間の例

要素同士の和やスカラー倍が可能な(それらについて閉じている)集合をみつければよいのです。たとえば奇関数と奇関数の和は奇関数だし, 奇関数のスカラー倍も奇関数なので, 奇関数の集合は線型空間です(同様に, 偶関数の集合も線型空間)。他にも以下のようなものがあります:

線型空間でない例

ここでわかるように, 線型空間の部分集合が線型空間になることがあります(それを部分線型空間と言います)し, ならないこともあります。

勉強方法について

問56, 線型空間の定義の書き取りで, 「2つの式を別々に何回も書く」「2つの式を交互に何回も書く」という2通りのやり方がありますね。「書く」だけなら前者が楽ですね。しかし頭に焼き付けるのなら後者でしょう。作業の目的を考え, 効果の高いやり方を工夫しましょう。

学生のリアクションペーパーから

p68 左列の「2 つの演算子のうち、右(x(t)が先にかかる方)が x(t)にかかったときに恒等的にゼロになってしまえば、残されたもうひとつの演算子が何をしようが、この微分方程式は成立する。」という文章について, なぜ右に着目してるのですか?

… (d/dt-2)(d/dt+1)x=0を, (d/dt-2){(d/dt+1)x}=0と見てみよう, ということです。

関数を三角関数の線型結合で表すこと(フーリエ級数)と三角関数の合成は何が違うのですか。

… 良い質問です。sin x + cos x = √2 sin (x+π/4) みたいなのが「三角関数の合成」です。これは同じ周期(周波数)の三角関数同士の和です。フーリエ解析は, sin x + sin 2x + …みたいに, 周期の違う三角関数同士の和です。ただし, その中にsin kxとcos kxが入っている場合は(普通はそうです), その部分については「三角関数の合成」が発生します(これによって位相の変化を表現することができます)。

線形空間を考えていると数学とは何なのか今まで学んできたことは数学だったのか疑いたくなった。

… 小学校の算数と中学高校の数学にはギャップがあったでしょ? それよりもずっと大きなギャップが高校数学と大学の数学の間にある気がします。

線型空間という概念は高校で学んできた受験数学とは全く違うもので自分の中で教科書で勉強しても何か今までのようにすっと頭に入ってこないと思っていたのだが、大学での勉強はすっと入ってくるものではなく忍耐強く学んだ先に掴めるものだと思うので頑張っていきたい。

… すっと入ってさっとわかるようなものではないからこそ学ぶ価値があるのです。

線形空間の次元を、[線形空間の「標準」基底の要素の数のことを、線形空間の次元という。]と定義するのは間違っているのでしょうか?

… 「標準基底」はユークリッド空間(もしくはいずれ学ぶ計量空間)という特別な線型空間で定義される概念です。標準基底を持たない(そして基底や次元という概念は持つ)線型空間もたくさんあります。