研究メモ: Horton型浸透能の拡張について 2000/8/7 西田顕郎
Hortonの浸透能式(下記)は広く用いられている。
f = fF + (f0 - fF) exp (- kt) ・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1)
f :浸透能、fF:最終浸透能、f0 :初期浸透能、k:定数、t:給水開始からの時刻
しかしこの式は、表面流が発生するような十分な給水が前提になっており、降雨強度が大きく変化するような場合には適用できない。そのような場合にも適用可能なように(1)式を拡張する。
まず、土層内の水の貯留Sと、その貯留から深層へ排水するフラックスdを考える。質量保存則から、
dS/dt = α(fin - d) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (2)
fin:実際に浸透するフラックス、α:定数
ここでαは貯留を0〜1に規格化するための定数で、物理的には最大貯留量の逆数であるが、現実に何をもって「貯留量」を定義するかというのはやっかいな話であり、実際はチューニングパラメータとして扱われる。
また、fはSに線形に依存すると考え、S=0でf=f0, S=1でf=fFだから、
f = fF + (f0 - fF) (1 - S) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3)
ここで、十分な水供給がある場合を考えてfin=fとし、dを一定と仮定すると、(3)をtで微分して(2)式を代入すれば
df / dt = - (f0 - fF) dS/dt = - (f0 - fF) (f - d) α
これは簡単な微分方程式で、
f = C exp (-(f0-fF)αt) + d
となる(Cは積分定数)。ここで、t=0のときf=f0、t=∞のときf=fFより、
d=fF ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (4)
および、 C=f0-fFとなり、結局、
f = fF + (f0 - fF) exp (-(f0-fF)αt) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (5)
となり、
k = (f0-fF)α ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
とすれば(1)式と一致する。
つまりこの場合、f0, fF, k(またはα)という3つのパラメータが決まれば、(2),(3),(4),(6)式によってHorton浸透能式が拡張されたことになる。ところが上記のケースは、深部浸透d(排水)が一定という荒い条件が入っており、そのままインプリメントすると降雨後しばらく経つとSが負になってしまう。それを条件分岐などで避けるのは不自然なので、これをもう少し現実的にするために、dもSに線形に依存するとしよう。S=1では定常状態だからd=fF、S=0ではd=0であるから、
d=SfF ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (7)
となる。これを(2)、(3)と組み合わせ、再び十分な水供給を仮定(fin=f)すると、
dS/dt = α(f - SfF) =α (fF + (f0 - fF) (1 - S) -SfF ) = α(f0 - f0S) = αf0(1 - S)
となり、これも簡単な微分方程式で、t=0でS=0を考慮すれば、
S = 1 - exp (-αf0 t) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (8)
これを(3)に代入すれば、
f = fF + (f0 - fF) exp (-αf0 t) ・・・・・・・・・・・・ (9)
となり、
k = f0α ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
とすれば(1)式に一致する。つまり、この場合は(2),(3),(7),(10)式によってHorton浸透能式が拡張されたことになる。この場合も、f0, fF, k(またはα)という3つのパラメータが決まればあとは降雨のみで浸透能は定まる。
実際には、貯留と深部浸透(排水)の関係はもっと複雑であると思われるが、そうなると不飽和浸透問題を解かねばならず、非定常降雨条件でそれを行うにはまともな数値計算が必要になるだろう。それはHortonの簡易なモデルの精神には合わないことであり、この程度で切り上げておくのが賢明だろう。Hortonモデルが拡張されたとはいえ、最終的にはパラメータの数は増えていないことに注意されたい。
まとめ
拡張Horton浸透能式
f = fF + (f0 - fF) (1 - S)
dS/dt = α(fin - d)
d=SfF
(従来のHorton浸透能式には、k = f0αで対応)