ゼミ発表や卒論/修論発表, 学会発表などで, 良いプレゼンをするにはどうすればよいかについてです。
プレゼンが上手にできると, 皆さんは多くの人に理解され, 関心を持って貰えます。それが自信や自己肯定感につながります。プレゼンが良いとゼミが楽しくなり, 研究室生活が幸せになります。プレゼンスキルは誰でも磨けば伸びます。
この100%は「完璧」という意味ではなく, 「今の自分の全力を出し切ろう」という意味です。データも図表も構成も, 「これ以上は今の自分には無理」というクオリティを目指しましょう。
どんな小規模でもプレゼンは勝負の場。発表者の人格・経歴・功績等に無関係に「話の内容」が吟味されます。何か突っ込まれたとき, 100%の力を出し切った人は「準備不足でした」で終わらせずに, なぜ・どこが・どのように足りなかったのかというところまで踏み込んで内省できます。それが成長につながるのです。
100%を出し切れば, 「これが今の自分の全てだ」と開き直れるので爽やかで落ち着いた気分になり, 自信を持ってプレゼンできるし, 落ち着いて質疑に対応できます。100%を出し切らない人は準備不足の後ろめたさがあるので, 自信を持てないから落ち着いたプレゼンができません。
上と矛盾するようですが「準備のしすぎ」もダメです。150%や200%の準備は「やりすぎ」です。プレゼンの見栄えやわかりやすさに労力を使いすぎて, 良いネタを作ること, つまり研究や思考に使う時間や労力が減っては意味がありません。プレゼンやその準備はネタのふりかえりや磨き上げの機会であり, それ以上を追求しすぎてはいけません。
ビギナーは「とにかくプレゼンを無事に終わらせること」を考えがちですが, それはダメ。プレゼンはあなたのためのものではなく聴衆のためにあるのです。聴衆は忙しい時間を割いてあなたのプレゼンを聞いてくれるので, それに対する感謝の気持ちを忘れてはいけません。聴衆に有益な経験をしてもらえるよう, サービスしなければなりません。たとえば20分間のつまらないプレゼンを40人の専門家に対して行ったら合計で800分間(13時間以上)の貴重な時間を無駄にするのです。人件費で換算すれば数万円から数十万円の社会的損失です。「自分が聴衆だったらこのプレゼンをどう思うだろうか?」と想像しながら, サービス精神を持ってプレゼンしましょう。
プレゼンの目的はあなたの主張を聴衆に伝え, それを聴衆の心に刻んでもらうことです。一般的に人間は楽しいことはよく理解しよく覚えます。従ってプレゼンでは聴衆を楽しませることが大切です。
といっても漫才や手品をする必要はありません。「ネタ」が良ければそれ素直にわかりやすく, 印象深く伝えるように努力すれば, 結果的にあなたのプレゼンは「エンターテイメント」になるはずです(だからネタを磨くことが大事なのです)。プレゼンは型式・格式ばった雰囲気になりがちですが, そのような固い雰囲気では聴衆は楽しめません。従って, 聴衆をリラックスさせることも重要です。演者が緊張していると聴衆はリラックスできませんので, まずあなた自身が適度にリラックスすることが重要です。そのためには硬い言葉を避けて, 普通に話しましょう(「発表させて頂きます」→「発表します」など)。スライドに親近感の持てる写真を入れたり, 聴衆に問いかける等の仕掛けも有効でしょう。
プレゼンの主役はあなたです。あなたにが聴衆を楽しませることに成功すれば, 聴衆はあなたに注目し, あなたの話を聞くのです。これはチャンスです。いかにあなたが重要な仕事をする重要な人物であるか, 聴衆に印象づける機会です。それは決してスタンドプレーではなく, あなたの人生の晴れ舞台です。満場の視線と喝采を浴びることは, 承認欲求を満たしてくれます。それに素直になりましょう。あなたはプレゼンの機会を与えてくれた人に感謝し, 日頃の研鑽と努力の成果をもとに, 自己顕示欲を大いに発揮しましょう。聴衆を楽しませることで, あなたも楽しみましょう。
プレゼンソフト(MS-PowerPoint等)を使えば, 自分がよく把握していないことでも適当にプレゼンできてしまいます。自分が何も覚えていなくても, スライドに必要な情報を全部入れておいて, それを適当に流していけばとりあえず形になりますから。でも, スライドは「カンニングペーパー」ではありません。スライドはあくまで補助。スライドだけに頼らず, 話す内容をきちんと頭に入れておきましょう。練習として, スライドを使わないで黒板やホワイトボードを使うプレゼンをやりましょう。
優秀な学者や教育者の中にも, プレゼンがダメな人はいます。そのようなプレゼンを見て, 「あの人でもこういうプレゼンをするのだから, それでいいんだな」などと思ってはいけません。たとえプレゼンがダメでも, 本質的な技能や業績があれば大目に見てもらえるものですが, それは決して褒められることではありません。本来, 自分の考えをきちんと人に伝えることは, どのような人であっても習得しておかねばならない, 基礎的な能力です。
発表時間を超過してはいけません。後の発表者の時間や休憩時間が削られるので迷惑です。
プレゼンはこうあるべし的な助言やハウツーはいろいろありますが(このページもそうですね笑), ここまで書いてきたことが達成されるならば, そのやり方は自由です。むしろ人それぞれ向き不向きがありますので, 個性を活かして自分がやりやすいスタイルを追求しましょう。上手い人のプレゼンから学べることは多いでしょうしそれを真似るのもよいですが, あくまでそれは「私のプレゼン」への道です。だから, 他の人のアドバイスに無闇に従いすぎてはいけません(笑)。
ダメなプレゼンは罪です。おおげさな, と思うかもしれませんが, こう考えてみましょう: 学会や研究会, 説明会などでプレゼンがダメだと, 伝わるはずの情報が伝わりません。その結果, 最新の知識や技術, 重要な問題などが共有されません。また, そのような「つまらない会」には次回から人が集まらなくなります。それによって共同体が求心力を失い, 知的資産が継承されず, 専門家どうしが連携を失っていきます。そのような結果, 社会の問題に対する取り組みが遅れ, 有用な研究や事業が, 無駄な研究や事業に埋もれてしまい, 資源が有効に配分されません。そうして社会は停滞していきます。知識社会・情報社会にあって, ダメなプレゼンは多くの害をもたらすのです。
もちろん, プレゼンも人がやることだから失敗や駄目なこともありますし, それは仕方ありません。大事なのは, プレゼンが大切な営みであることを肝に銘じ, 心を込め, クオリティを上げ続ける姿勢です。
声が小さいとか聞き取りにくいのはNGです。大きな声でゆっくりはっきりしゃべりましょう。
アイコンタクトとも言います。聴衆の目を見て, 聴衆の反応や表情を見ながら話をすることです。ビギナーは, 原稿やパソコン画面を見つめるばかりで, ほとんどアイコンタクトができません。
人の目を見て話すことができるのは, 自信の表れです。自信が無い人は, 聴衆の目を見ることができません。どうしてもアイコンタクトができないという人は, まず前述の, 「100%の準備」をしているかどうか, 自分に問いかけてみて下さい。
自信がなくても, がんばって聴衆の目を見ましょう。聴衆は身を乗り出して聴いてくれているか, あるいは下を向いたりよそみをしているか, 観察して下さい。一人でも身を乗り出してくれていれば, それがあなたの自信になります。
どんなに面白い内容でも, 発表者がアイコンタクトしないと, 聴衆の集中力はすぐに落ちてしまいます。聴衆は, 「ああ, この演者は勝手にしゃべってるなあ」という気分になって, 話についていこうという気力を無くしてしまうのです。聴衆にむかって, 「ここまでわかってくれましたか?」と, 目で問いかけましょう。
ずーっとしゃべり続けるのは疲れます。聞く方も疲れます。適当に間を空けて, リズムを整えることが大切です。いちばん簡単な間のとり方は, 聴衆に, 「ここまでで質問はありませんか?」と尋ねることです。何も質問が出なくても, 「なら続けましょう」で次に進めばいいのです。
スライドの上を差し棒やレーザーポインタでうろうろ指し続ける人がいます。それは聴衆の視線を迷わせます。指し棒やレーザーポインタは, 「ここを見てほしい」というところをはっきりと指すときだけ使い, それ以外のときは下ろしておきましょう。レーザーポインタのスポットは, スクリーンの上では速く大きく動くので, 聴衆にとって見失いやすいものです。気をつけましょう(そのため, 私はなるべくレーザーポインタを使わず, 指し棒を使うようにしています)。
多くの場合, 演台はスクリーンから離れています。そのため, 聴衆はスクリーンと演台をひとつの視界に収めることができません。その場合, 演者が演台に張りついていると, 聴衆は演者を見ることができず, 演者の声とスクリーンに写ったスライドだけをたよりにプレゼンを聞きます。そのようなプレゼンは動きに欠けるため, 退屈や眠気を誘います。演者はできるだけ演台から離れ, スクリーンのすぐそばに立ち, 聴衆の視界に入るように努めましょう。そして, 身振り手振りも交えて, 体で聴衆に語りかけましょう。
発表者が原稿を読んでいると, 聴衆は頼りなく感じます。原稿が必要だという人は原稿を作ってもよいですが, それを何回も音読して, 本番では原稿なしでできるように準備しましょう。
日常的な会話の中でも, 自分の考えを簡潔・明瞭に伝えるように心がけて暮らしましょう。日常では全てを言葉にしなくても「あうんの呼吸」でものごとが進むものですが, そこをあえて, きちんと丁寧に言葉に出して説明するように努力しましょう。
スライドを見ている人が楽にわかるようにしましょう。おもてなしの心です。どこに何が書かれていて, それらがどのように繋がっているのかをわかりやすくしましょう。それがわかりにくいと, 聴衆は情報どうしの関係や対応付けを探して, スライドのあちこちに視線を動かして探し回ることになり, 彼らの頭は疲れてしまい, 集中力が切れてしまいます(それはあなたの次の人の発表にも悪い影響を与えかねません)。
聴衆は我慢強くありません。話の本題や核心に早く入りましょう。「この話は何にどうつながるのか?」という不安を聴衆に抱かせないようにしましょう。といっても「簡潔に」という意味ではありません。話の大枠や, 内容を想像させる具体的な題材などを削りすぎてはいけません。
正しい言葉でも, 相手が知らなければ通じません。あまり使われない・耳慣れない言葉は簡単な言葉で置き換えることができないか考えましょう。プレゼンは聴衆の教養を測るテストではありません。聴衆にメッセージが届くかどうかが全てなのです。
プレゼンの途中で, 既に出したスライドに戻ろうとするのはダメです。聴衆にとっては, 話の流れが混乱します。必要ならば, 同じスライドを該当個所に複製しておけばいいことです。スライドは一方通行が原則です。
スライドの各ページの片隅にページ番号をつけると, 聴衆が質問やコメントをするときに助かります。「13ページのグラフについてですが...」というふうに, 話題にしたい箇所をピンポイントで指摘できますので。
スライドの字が小さいと見づらいです。スペースが許す限り, 大きな字を使いましょう。また, 行間がツメツメだと読みづらいので, 適度に行間を空けましょう。
ネットで拾ったコンテンツを貼り付けるときは, 出典も書かねばなりません(いらすとや等のフリー素材を除いて)。何も書かずにしれっと貼る人が多いですが, 剽窃や著作権侵害になってしまいます。出典記載の無い素材は暗黙に著者(発表者)のオリジナルとみなされます。ということは, 君が出典出さずに資料に載せた素材が, 他のどこかで見つかった場合, どちらかがパクったということになります。最悪は, オリジナルの方がパクリだと疑われること。つまりオリジナルの著者に冤罪がかけられてしまうのです。
出典を載せるのは, その素材(データ)の根拠や信頼性を読者や聴衆が確認・判断できるようにするためにも必要なことです。「ああ, あのサイトのデータね, なら信用できるな」というふうに。
質問に答えられないときは素直に「わかりません」と言ってもよいのです。そしてなぜわからないかを説明しましょう。いちばん多いのは「質問の意味がわからない」ということです。その場合は素直にそう言えばよろしい。質問の意味がわかってもなお「わからない」ならば, あとは自分の知識ではわからないだけで実は世の中では既に知られているかも知れないか, あるいは誰もまだ解明できていないかのどちらかです。前者の場合は「今後検討します」と言っておけばよいし, 後者の場合はその背景などを手短かに説明しましょう。発表後の懇親会ではその話で盛り上がるでしょう。「わかることとわからないことをはっきり区別する」というのはとても大切な態度ですので, それができる人は好感を持たれます。
ただし, 研究内容を否定するような質問やコメントに対して, すぐに引き下がるようではいけません。あなたはすくなくともそのテーマについては全力で深く考えてるはずなので, その全てを出して自分の立場を説明しましょう。否定的な質問やコメントは勘違いやおおざっぱで一面的な見方に立脚していることも多いので, 動揺しないで落ち着いて考えましょう。その場で決着をつけなくてもよいのです。発表後に個人的に議論させてもらいましょう。否定的なコメントをうまく乗り切ることができれば, あなたはぐっと成長するし, 質問した人はこんどはあなたの味方になってくれるかもしれません。
良いプレゼンのためには聴衆の役割も大きいです。演者が良いプレゼンができるように貢献し, セミナーや研究会を良い時間にできれば, 自分の利益になります。
演者にとっては, 前のほうが空いていて後ろにだけ人がいるというのは寂しくてやりづらい状況です。しかし多くの人は会場の後方に席取ろうとします。いろんな心理のせいだと思いますが, それは「演者とは関係を結びたくない」「このセミナーや研究会にはあまり関わりたくない」というメッセージと受け取られます。目立たないようにしているつもりでかえって目立っています。
スマホや資料に目を落としているのではなく, しっかり顔を上げて演者の話を聞いてあげましょう。そして, うなずいてあげましょう。そういう聴衆が2, 3人いれば, 演者は安心しリラックスできます。
演者が何かインタラクティブなことをするかもしれません。「手を挙げてください。知ってる人? 知らない人?」とか。そういうときはしっかり反応してあげましょう。どちらにも手を挙げないというのは, シニカルで冷淡な態度です。
なにか質問やコメントは? となったときに無反応なのは発表者や司会にとって, しんどいです。簡単な言葉の確認でもよいので, 質問やコメントをしましょう。質問・コメントすることを考えながら発表を聞きましょう。「良い質問」「意味のあるコメント」をしようと考え過ぎてしまって何も言えないのは残念です。質問・コメントすることで, その発表がエピソードとして自分の心に残り, 知識として蓄積されます。ちょいちょい質問・コメントしてくれる人のことを司会は感謝の目で見るものであり, それはあなたの新しい人間関係やチャンスにもつながります。
以上のことをやろうと思っても, 話に興味が持てなかったら無理です。いろんなことに興味を持てるように好奇心を広げ, 基礎知識を増やしましょう。