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森林バイオマス計測(ビッターリッヒ法)

2014/09/01 国立環境研究所 林真智

ここでは、ビッターリッヒ法に基いた森林バイオマス計測の方法を説明します。PDF形式のファイルをこちらからダウンロードできます。

1. はじめに

ビッターリッヒ法は、オーストリア国有林の営林署長である W. Bitterlich によって1948年に発案されたもので、簡易な手順にしたがって単位面積当たりの胸高断面積合計を推定できる方法である。林内の一点に立って周囲の立木の胸高直径を一定の水平視準角で視準し、視準角より大きく見える立木の本数に、視準角によって定まる定数を乗じることで、1ヘクタール当りの胸高断面積合計を得る。

その後、ビッターリッヒ法を応用した計測方法について研究が進められ、平田種男など主に日本の研究者によって著しい発展をみた。その中には、胸高断面積合計から林分材積(ひいては地上バイオマス)を推定する方法も含まれている。本稿では、その一つであるカウント木法に基づいて、地上バイオマスを計測する手順について述べる。

非破壊的な手段で森林バイオマスを計測する方法は、全林調査法と部分調査法とに分けられる。前者は、対象林分における全ての立木の胸高直径や樹高を計測し、既存のアロメトリ式にしたがって地上バイオマスを計算する。後者は、対象林分の一部を計測して全体を推定するもので、標準地法とポイントサンプリング法とに分けられる。標準地法は、一定面積の調査地(プロット)を設定し、プロット内の全ての立木の胸高直径や樹高を計測する方法で、科学的調査において最も標準的に用いられている。一方、ポイントサンプリング法はビッターリッヒ法(とその応用的方法)のことを指しており、一部の立木を抽出(サンプリング)して計測する。

一部をサンプリングして計測することから、ビッターリッヒ法に基づく方法は標準地法に較べて計測精度は劣るものの、1計測地点あたり30分から1時間程度で計測を終えられるため、効率的に多くの林分で計測を行う必要がある場合――リモートセンシングのグランド・トゥルス収集など――には非常に有効な方法である。ただし、著しく不均質な林分など、サンプリングによる計測が適していない場合には、計測精度が低下する可能性のあることに留意する必要がある。

2. 原理

2.1 ビッターリッヒ法

まず、1ヘクタール当りの胸高断面積合計を推定する原理について述べる。図1は、O点に立っている計測者が、半径 ri (m) の胸高断面を有し距離 Ri (m) に位置する立木を、視準角 2α (°) で視準している状態を表している。この立木と同じ半径riの立木が距離 Ri より近くにあれば視準角 2α より大きく見えるためカウントされるが、距離 Ri より遠くにあった場合はカウントされないことになる。

Fig1.png

図1. ビッターリッヒ法の原理

図1から明らかなように、

sin α = ri / Ri

O点に立つ計測者が数えたところ、半径 ri の立木が Zi 本であったとすると、この半径を有する立木の1ヘクタール当りの推定本数 fi は、

fi = Zi * 1002 / πRi2

右辺の分母は計測者が視準している範囲の面積を、分子は1ヘクタール(1002 m2)を表している。したがって、この半径を有する立木の1ヘクタールあたりの胸高断面積合計は、

fi * πri2 = Zi * 1002 * πri2 / πRi2 = 10000 * Zi * sin2 α

ここで、

k = 10000 * sin2 α

とおけば、半径 ri の立木の1ヘクタール当りの胸高断面積合計は k*Zi となる。他の半径を有する立木についても同様であるため、林分全体の1ヘクタール当りの胸高断面積合計 B (m2) は、

Eq5.png

ここで、n は対象林分における胸高直径階の数、ZO点から視準してカウントされた立木数である。カウントされた立木数を k 倍するだけで1ヘクタール当りの胸高断面積合計を推定できることになる。この k は断面積定数(Basal Area Factor; BAF)と呼ばれている。

視準角を設定する簡略な方法として、親指を利用することもある。例えば、腕を十分に伸ばした長さが 60 cm、親指を立ててそこからはみ出す立木をカウントするとして、親指の幅が 2 cmとすれば、断面積定数は 2.8 となるので、カウントされた立木数を 2.8 倍すれば1ヘクタール当りの胸高断面積合計が推定できる。

2.2 カウント木法

次に、ビッターリッヒ法を応用して林分材積(または地上バイオマス)を推定する原理について述べる。

計測者によって1本の立木がカウントされたとき、それと同じ胸高直径の立木が1ヘクタールの範囲にある推定本数は、

fi = 1002 / πRi2

この式を変形して、

fi = 1002 / πRi2 = 10000 / π * (ri / sin α)2 = k / πri2

この、断面積定数を胸高断面積で除した値は、基準本数と呼ばれている。ある立木がカウントされると、その立木はこの式で表される本数の立木の代表としてサンプリングされたと考えることができる。

そこで、カウントされた全ての立木に対して胸高直径と樹高とを計測し、各カウント木の材積(または地上バイオマス)を既存のアロメトリ式にしたがって計算し、それに基準本数を乗じることで1ヘクタールあたりの材積(または地上バイオマス)をカウント木ごとに推定できる。この推定値を、すべてのカウント木に対して足し合わせれば、1ヘクタールあたりの材積(または地上バイオマス)の合計が推定される。なお、使用するアロメトリ式において必要とされる変数が胸高直径だけであるような一変数材積式の場合(熱帯地域の国などに見られる)、樹高を計測する必要はない。

3. 計測器材

3.1 レラスコープ

一定の視準角で立木を視準するための測定器具を総称して、レラスコープと呼んでいる。表1と図2に、代表的なレラスコープの概要を示す。状況に応じて適切なレラスコープを選択する必要があるが、本稿では、これらの中で最も操作性に優れている電子レラスコープの使用を前提とする。電子レラスコープとして、Laser Technology社(米国)が発売している “CRITERION RD 1000” があり、国内の販売代理店テラテックから購入できる(約26万円)。

なお、同一の断面積定数で視準する場合でも、傾斜地においては視準角を変更する必要がある。視準角は、水平方向を視準するとき最大となり、傾斜がある場合は斜度に応じて小さくする必要がある。表1に挙げたレラスコープは、簡易レラスコープを除き、斜度に応じて自動的に視準角を調整する機能を有しているため、計測者が傾斜に配慮する必要はない。簡易レラスコープを利用する場合は、地面の斜度を計測しておいて、計測後の計算の際に補正する必要がある。

表1. 代表的なレラスコープの概要

Table1.png

Fig2.png

図2. 代表的なレラスコープの外観とスコープ内の様子

※一部画像は、Forestry Suppliers社のホームページおよび測樹学問題集(島田浩三久)より引用

3.2 その他の器材

表2に、標準的な器材リストを示す。胸高直径の計測には、林況に応じて輪尺を直径巻尺と併用すると効率が上がることもある。輪尺は、ノギスを大型にしたもので、幹が真円に近い針葉樹の人工林で使用できる。また樹高測定器としては、Vertexの他に、距離計測にレーザ光を利用する TruPulseや、巻尺を併用するブルーメライスなどがある。必要に応じて、適宜、選択すると良い。

表2. 標準的な器材リスト

Table2.png

4.計測手順

表3. 標準的な計測手順

Table3.png

【1】計測地点、すなわち電子レラスコープを用いて周囲の立木を視準する際の立ち位置を決定し、目印として赤白ポールを設置する。できるだけ見通しの良い場所であることが望ましい。

【2】計測者Aは、GPS計測を開始する。GPS計測された地理座標は、一定時間の平均値を採用することで位置精度が向上するため、できれば当該計測地点の作業が終了するまでGPS計測を継続する。また、計測地点の名称や計測開始時刻、優占樹種や樹冠率、下層植生などの林況を調査シートに記入する。

【3】計測者Bは、クリノメータで地形を計測する。斜度を計測する際には、計測者Cに斜面下方に立ってもらう。

―――― この段階で、各計測者の役割を交代してもよい ――――

【4】計測者Aは、電子レラスコープを用いて周囲の林分を大まかに視準し、カウント木数が15〜25本程度になるように、断面積定数BAFを決定する(デフォルトは、BAF = 2)。

【5】計測者Aは、電子レラスコープを用いて赤白ポール位置からカウント木を判定する。電子レラスコープの測帯より大きい立木は1、測帯と同じ大きさの立木は0.5とカウントする。その際、例えば時計回りにカウントするなどのルールを決めておく。対象木の胸高位置(本州では1.2 m、北海道と海外では1.3 m)を潅木などにより視準できない場合は、それらを刈り払う。ただし、刈り払うことに非常に労力がかかる場合は、胸高位置より高い位置を視準するか、立ち位置を移動するかにより推測する。立ち位置を移動する場合は、できるだけ対象木との距離を一定に保ったまま移動することが望ましい。

【6】計測者Aは、カウント木を計測者BおよびCに伝える。計測者Bは、カウント木の樹種を確認するとともに、胸高直径を計測する(計測方法については、下記参照)。その後、計測者Cが樹高を計測するための補助として、トランスポンダ(Vertexの付属品)をカウント木の胸高位置に設置する。胸高直径と樹高の計測が終了したカウント木には、木材チョークで×印をつける。×印は、調査プロット中心に向かう側につける。

【7】計測者Cは、計測者Bの補助を受けてカウント木の樹高を計測する。樹高は斜面上部から計測する(斜面下部から見上げて計測すると角度が大きくなり、計測誤差が大きくなる)。また、可能な限り計測する樹高と同じかそれ以上離れ、カウント木の梢端が見える位置から計測する。カウント木の梢端が分かりにくい場合は、計測者Bにカウント木を揺らしてもらう。樹高は、カウント木1本につき4回計測した平均値を採用する。

【8】計測者Aは、各カウント木の樹種、胸高直径、樹高、カウントが0.5か1かの別を調査シートに記入する。

【9】最後に、林況写真を撮影する。

■胸高直径の計測方法

  • 計測対象木の斜面上側の地上1.2 m(北海道・海外では1.3 m、以下同様)の位置で計測する。
  • 小数点第一位までcm単位で記録する。
  • 対象木が斜めに生えている場合は、根元から幹に沿って1.2 mの位置で計測する。
  • 地上1.2 mで瘤や欠けある場合は、その上下で計測した平均値とする。
  • 対象木が、地上1.2 m未満で分かれている場合は、複数本の立木として扱う。
  • 対象木が板根や支柱根を有する場合、その上端から1.2 mの位置で計測する。
  • 蔦などが対象木に絡んでいる場合、それらを伐ってから計測する。

5.森林バイオマスの計算

現地の計測の後、計測対象林分の地上バイオマスを計算する手順を、表4に示す計算例にしたがって述べる。表4の中で、樹種・胸高直径・樹高は、現地での計測結果である。これらから、既存のアロメトリ式を利用することで、各カウント木の地上バイオマスを計算できる。国内であれば、立木幹材積表(林野庁計画課,1970)を利用して幹材積(幹の体積)を計算し、これにバイオマス拡大係数(枝葉を含む地上部全体の材積と幹材積との比)と容積密度(材の比重)を乗じることで地上バイオマスを計算するのが一般的である。バイオマス拡大係数と容積密度の値については、日本国温室効果ガスインベントリ報告書(温室効果ガスインベントリオフィス,2014)にまとめられている。

次に、断面積定数と胸高直径とから基準本数を計算できる。こうして得られた地上バイオマスと基準本数とを乗ずることで、各カウント木に対応した1ヘクタール当りの地上バイオマスを計算できる。これをすべてのカウント木に対して足し合わせることで、計測対象林分の地上バイオマス推定値を得ることができる。

表4. 地上バイオマス計算例

Table4.png

参考文献

ビッターリッヒ法に関する文献

  • 大隅眞一 (編):森林計測学講義,養賢堂,東京,1989.
  • 島田浩三久:測樹学問題集,地球社,東京,2002.
  • 南雲秀次郎・箕輪光博:現代林学講義10 測樹学,地球社,東京,1990.
  • 西沢正久:森林測定法,地球出版,東京,1959.

アロメトリ式に関する文献

  • 温室効果ガスインベントリオフィス (編):日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2014年4月,国立環境研究所,つくば,2014.
  • 林野庁計画課 (編):立木幹材積表 東日本編,日本林業調査会,東京,1970.
Last modified:2015/05/29 14:13:03
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