農業・生態系保全のための関東域高解像度土地利用・土地被覆図の開発

 持続可能な土地利用や環境保全に取り組むうえで, 土地利用・土地被覆 (Land Use Land Cover: LULC) の把握は重要である. その空間的分布の把握を目的に衛星画像などを用いて作成されるのが土地利用・土地被覆図であり, LULCマップなどと呼ばれる. LULCマップの作成には, 広範な地表面の観測に強い衛星リモートセンシングが活用されることが多く, LULCマップは農業や生物多様性保全など広範な分野に有益な情報を提供できる重要な基盤データだ. 日本では, 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 (Japan Aerospace Exploration Agency: JAXA) により高解像度土地利用・土地被覆図 (HRLULC-Japan) が数年おきに作成・公開されている. 本研究開始当初の2023年7月時点で, HRLULC-Japanの最新のプロダクトであるバージョン21.11では, JAXAにより開発された多時期土地利用・土地被覆分類アルゴリズム”SACLASS2”を用い, 12カテゴリで全体精度 (Overall Accuracy: OA) 88.85 %の日本域LULCマップが作成された. だが, HRLULC–Japanはカテゴリ追加の面で改善の余地がある. そこで本研究では, バージョン21.11の従来カテゴリへの新規カテゴリの追加により, 農業・生態系保全により有用なLULCマップの作成を試みた. なお, 本研究はJAXAおよび一般財団法人リモート・センシング技術センター (Remote Sensing Technology Center of Japan: RESTEC) との共同研究である.

 対象領域は関東地方とし, 分類カテゴリはバージョン21.11の12個(水域, 人工構造物, 水田, 畑地, 草地, 落葉広葉樹, 落葉針葉樹, 常緑広葉樹, 常緑針葉樹, 裸地, 竹林, ソーラーパネル)に湿地, 農業用温室, 落葉果樹園, 常緑果樹園, 水稲裏作地帯, ハス田, 茶園を加えた19個である. なお, 水田は水稲田, 畑地は草本畑地というカテゴリ名に改めた.

 分類アルゴリズムへの入力データとして, 光学衛星および合成開口レーダーの多時期画像, その他補助データを用意し, 分類アルゴリズム “SACLASS2” による分類の後, アンサンブル学習を行った. その結果, 19カテゴリで全体精度 (Overall Accuracy OA) が93.5±2.0 %のLULCマップが作成され, 詳細かつ高精度なLULCマップの作成に成功した.

 本研究により, 新規カテゴリ追加による詳細化を行いつつも高精度な分類が可能であることが示され, JAXAが2023/12/28にリリースしたHRLULC-Japanの最新版 “バージョン23.12” において, 新規カテゴリとして湿地と農業用温室が追加され, HRLULC-Japanの詳細化に貢献した.

キーワード: 土地利用・土地被覆図, HRLULC-Japan, 詳細化, カテゴリ追加, アンサンブル学習

↑表1: 各カテゴリの定義と教師検証点数
↑表2: 分類アルゴリズムへの入力データの一覧
↑図1: 分類結果の概観
↑表3: 混同行列による精度評価結果
↑図2: 各新規カテゴリの分類結果の例